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miemiとミーミとmiemiの部屋

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「うつ」の自覚

入院していると今まで意識していなかった「うつ」と言うのがどう言うものなのかははっきりとは自覚してなかった。「うつ」と言ってもいろんな種類のものがある。あたしは先生から「うつ」としか言われていなかったので自分はどんな「うつ」なんだろうとおもっていました。「でも入院するほど悪いんだろう」そう思いながら過ごしてるうちに自然に「あたしはうつだ」と思い始めた。そのうちに仲良くなった患者さんの手首には傷が何本も見える、リストカットだ。あたしは入院するまでそのようなことはテレビでしか見たことがなく自分ではやったことはなかった。興味すらなかったのだ。しかし「自分はうつだ」そう思い始めて地に足も付いていないような感覚。あたしはその人の真似をして最初は画鋲の先端で手首に傷をつけた。痛みは全く感じなかった。それを何回か繰り返しやった。手首には数本の浅い傷が付いていた。看護士も最初は親にはバレないようにと傷の上にガーゼを貼りその上に湿布をして挫いたことにしてくれたりした。でもそれもすぐに通用しなくなる。それくらいに傷は増えていた。それを見たその人はこともあろうにあたしにカッターの刃を手渡した。あたしはためらいもなく受け取り手首に滑らせた。当たり前だが画鋲より遥かに良く切れそれに伴って出血も増えた。痛みは依然感じない。感じるのはリストカットによって「自分はうつだ」と言う考えを肯定し背中を押した。そして皮肉にもそうすることで自分の気持ちにやすらぎのような憂さを晴らすような感覚が起こった。
「自分はうつだ」自分で自分を追い込む。リストカットも常習になり今度は今まで必死になって押し殺してきたものが溢れ出す。家族に対して感情をあらわにし暴言を吐く。今までは軽く口答えはしても暴言には程遠い可愛いものだった。それが今や暴言にしてもあまりに酷い事を母にぶつけた。1度言い出したら止まらない、止めたくても止まらない。あの時のあたしの家は地獄だった。家に外泊しては縫わなければならないほどに深いリストカット。母に対する暴言。このときのあたしは誰かに責任を擦り付けたかった、その矛先を母に向けてしまったのだ。そんなことが結構な期間続いた。
そんな中新患が入った。あたしと同じ歳の男。一見はそうは見えないのだがなかなかの武勇伝の持ち主だった。容姿はその辺にいる最近の若者って感じ。でもあたしは特に興味はなかった。しかしこの人物こそ後にあたしの大事件に関わってしまう。最初は話すらしなかった。と言うよりそんな若くてまともそうに見える男なんて今まで存在しなかった。からこそ1人の女の子が彼に夢中だった。だから話す機会も必然的にないのだ。あろ夜、なかなか寝付けなかったあたしは病棟の真ん中にあるホールに行った、別に目的はなかったのだが・・・詰所の明かりだけでほぼ真っ暗。ホールの隅のイスに誰か座っていた。その彼だった。初めてまともに話した。話をするとお互いの印象は違っていた。それから彼との関係は深まりそれなりの関係になった。そんな関係も長くは続かずいきなり別れを告げられた。それでも病棟は一緒。
あたしは復縁を望んだが拒まれた。でも彼も辛そうだった。そしてある日彼はあたしに爆弾を落とした。激しく動揺したあたしは彼を病室から連れ出し廊下の隅に追いやった。彼は視線をあわせようとしない。そして一言「これで俺のこと嫌いになった?」あたしは言葉を失って頭が真っ白のまま病室に戻った。気が付くと左手の手首の広範囲に渡って思い切り縦に4本横に3本カッターで切った。おびただしい血が吹き出た。そしてこともあろうにそのままの状態でまた彼の元に戻った。彼は廊下の隅でうずくまっていた。そしてあたしの姿を見るたび腰が抜けたようになった。無理もない、左手からは血が流れ落ち服も血だらけ。騒ぎを聞きつけた看護士たちが走って来てすぐに処置室に連れて行かれた。あたしはただ泣き喚いていた。声をあげて泣いていた。付き添ってくれていた年配の看護士さんも「辛かったでしょう」と繰り返し言いながら泣いていた。運が良かったのかその日外科の先生がいたおかげでその場ですぐに縫ってもらった。その後はその病院の刑務所と呼ばれる閉鎖病棟へ移された。ベットに移された瞬間呼吸ができなくなった。出血が多かったせいだろう。ショック性のものだ。気が付いたらまさに刑務所だった。隣では機械がピッピッと鳴っていた。「生きてる」自然に思った。意識がはっきりしてくると刑務所の全容が見えた。柵の中にあたしはいてベットに横になっている。その他何もない。トイレらしきものがあるが柵の外から丸見え。まさに刑務所、プライバシーなどあったものではない。そこで3日ほど過ごし元の病棟に戻った。あたしのリストカット事件は前代未聞だったらしく「伝説」になっていた。彼とあたしの距離は厳重に見張られる。あんな大事件があったにも関わらず彼とは喫煙室で距離を取りながら目を合わせずに話が出来た。
それ以降あたしのリストカットはほとぼりが冷めた。入院期間は半年に及んだ。「伝説」を残してあたしは退院した。退院したからといって「うつ」が治ったわけではない。


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